メルカリが見る次世代のインターネット

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ブロックチェーンによって、「次世代のインターネット」とでもいうべき新しい世界が生まれようとしている。その世界は今と何が違うのか、何ができるようになるのか。

その世界で生まれる可能性と課題をメルカリでブロックチェーン事業に携わる3名に聞いた。

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» メルカリはブロックチェーンをどう考えるのか?

目次

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曾川 景介(Keisuke Sogawa・写真左)
2011年、京都大学大学院情報学研究科システム科学専攻修士課程を修了。2011年にIPA未踏ユース事業に採択。大学院修了後にシリコンバレーの FluxFlex社にてWebPayを立ち上げる。ウェブペイ株式会社の最高技術責任者(CTO)としてクレジットカード決済のサービス基盤の開発に従事、LINEグループに参画しLINE Pay事業を経験。2017年11月、株式会社メルペイ取締役に就任(株式会社メルカリの執行役員も兼務)。


高橋 三徳(Misato Takahashi・写真中)
2007年に株式会社Speee創業、取締役に就任、2010年楽天株式会社入社、国際版の開発や市場アプリの開発をリード。2011年株式会社スポットライトCTOに就任、2013年に楽天株式会社に売却、退社後、スタートアップの支援や大手企業のコンサルティングを行う。2017年8月メルカリ入社。2018年よりメルペイに参画、メルカリファンド投資先のtsumug社取締役


濱田 優貴(Yuki Hamada・写真右)
株式会社メルカリ、取締役。東京理科大学工学部在学中に株式会社サイブリッジを創業、取締役副社長に就任する。2014年10月に同社退社後、株式会社メルカリにジョイン。2016年3月に取締役に就任する。

ブロックチェーンの普及した世界とは

ー3人が見ている「ブロックチェーンの普及した世界」とはどのような未来でしょうか

濱田:僕と曽川、高橋の3人でさえも、それぞれ見ている世界は異なっている可能性があります。インターネットが普及する前に普及後の今の世界を想像するのが難しかったように、人によって想像する未来は異なるところもあるでしょう。

高橋:たとえば、私は「スマートダスト」という表現で考えている未来があります。スマートダストは、町中に塵のようにセンサーデバイスが散らばっている世界です。そのセンサーによって、世の中の物質や動きを感知することができれば、それをVR上に再現できます。つまり、現実をVR上で再現できます。

そして、VR上では、あらゆるものをブロックチェーンで管理できるので、現実で起こっていることをブロックチェーンを通じて管理できるようになります。

濱田:映画の「ザ・サークル」の世界と近いかもしれませんね。

※映画「ザ・サークル」とは
2017年のスリラー映画。小型監視カメラを使って、私生活を生中継する人たちが描かれている

高橋:これは一例ですが、今はまだブロックチェーンに関して社会実装されているものが少ないので、人によって見る世界は違うでしょうね。

ー今後、どのようにブロックチェーンは世の中に普及していくでしょうか

曾川:AmazonのDynamoDBのような普及をイメージすると近いかもしれません。DynamoDBはシステムとしては優れたものでしたが、利用者はサービスの裏側でそれが動いていても気にしません。しかしDynamoDBを利用するサービスが増えた結果、今は多くの人が間接的にDynamoDBを使っています。

そのように、利用者にとっては「ブロックチェーンを使っている」とは気づかない形で、サービスやプロダクトを通じて広がっていくのではないでしょうか。

高橋:他には、コンソーシアム型ブロックチェーンから普及する可能性もあると思っています。主体がいないブロックチェーンよりも「これを世の中に広めるのだ」と普及を推進する主体が存在するプロジェクトの方が普及しやすい部分もあるかと思います。

※コンソーシアム型ブロックチェーン
管理主体が複数の団体であるブロックチェーンのこと。管理主体がいないオープンチェーンと、特定の企業が管理するプライベートチェーンの中間に位置する

分散と中央集権、安全と安心

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ーブロックチェーンの特性の1つが「非中央集権型」の意思決定ができる点かと思います。そう考えると、ブロックチェーンが普及すれば、非中央集権型のサービスが増えるのでしょうか

曾川:ブロックチェーンが普及しても、必ずしもすべてのものが非中央集権になるとは限りません。

非中央集権によって安全をもたらすことはできるかもしれませんが、非中央集権によって人々が安心できるわけではありません。むしろ中央集権によるものに安心を感じやすいと思います。

非中央集権の仕組みの方が不正などは起こりにくく安全です。ただ、管理主体がいないと、人はそこに不安を覚える傾向にあります。対して、世界が管理されている中央集権の方が人は安心するのです。

「安心で安全なインターネット」という言葉がありますが、安全というのは技術的に確立することはできるでしょう。ただ、それがすべての人に使いやすかったり、安心して使えるかというと別です。インターネット自体が、非中央集権の仕組みですが、その上に中央集権的なグーグルが存在するというのは、そのグーグルが情報を整理して使いやすくしているからなのです。そのような「安心」を提供するレイヤーも、ブロックチェーンでも必ず必要になるでしょう。

安心を作るには、中央集権的な人達が、安心のレイヤーを付加する必要があるのです。我々はその安心と安全の両面を考慮し、ハイブリッドな仕組みを考える必要があります。事実、取引所も中央集権的です。普通の人がサービスを使うには、中央集権的な存在は求められるのです。

高橋:クレジットカードと現金に関しても「安心と安全」の両立の難しさを感じる時があります。クレジットカードの方がトラブルにあった時の保証はきちっとしているという点では安全です。ただ、現金支払いのほうが安心する人が多かったりします。必ずしも安全なものが安心というわけではないのです。

曾川:人の安全や安心という感情は、合理的には判断されていないのでしょう。安全はロジックで作れるけど、安心はロジックだけでは作れません。

ーコンセンサスアルゴリズムによって安心・安全の違いはでるのでしょうか

※コンセンサスアルゴリズムとは
ブロックチェーンにおいて不正が行われていないかをチェックする仕組み。PoWは、Proof of Work(プルーフオブワーク)の略で、コンピューターに膨大な計算を行わせることにより、不正がないかをチェックします。PoS=Proof of Stake (プルーフオブステーク)は、トークンの所有量により発言権を与える仕組み。BitCoinはPoWであり、NXTはPoSを用いている。またイーサリアムも今後、PoSに移行すると発表している。他にも、リップルが採用するPoCや、NEMのPoIなど、様々なアルゴリズムがある

高橋:たとえば、PoWやPoSを比較した場合に、本質的には「どちらが安心できる」というわけではありません。

曾川:PoSは、多くのシェアを持っている主体によって意思決定が行われるというリスクがありますし、PoWもマイニングプールが結託すれば、正しくない意思決定が行われる恐れもあります。

ただ、PoWやPoSのどちらであっても、そのような非合理な意思決定は起こりにくいと思っています。The DAO事件で、非合理的な事をやると、それを構成する社会が壊れて自分たちが損失を被るということが証明されました。そのため、そのような非合理なことをするというのが起こりにくい仕組みになっています。

そう考えると、コンセンサスアルゴリズムと「安心・安全」の議論は別で考えた方がよいと思っています。

※The DAO事件とは
分散型のベンチャーキャピタルのような投資組織を作るプロジェクト「The DAO」がありました。しかし、その仕組みの脆弱性を突かれ、360万イーサリアムが盗まれそうになりました。それに対して、お金を取り戻すためにブロックチェーンを被害前の状態に戻すという試みが行われたため、ブロックチェーンが2つ存在することになった事件のこと

濱田:コンセンサスアルゴリズムに関して、以前は「どれが良いか」という議論はありましたが、今は、「もう論点はそこではない」という気もしています。なぜなら、PoWもPoSもそれぞれの価値が認められているからです。価値を感じられているということは、そこに人は安心や安全を感じているからでしょう。

ーではコンセンサスアルゴリズムはどのような意味を持つのでしょうか

曾川:たとえば、価値の再分配においてコンセンサスアルゴリズムは重要な役割を果たします。

分散化された世界でも、ネットワーク効果が働くので、分散化の仕組みの上でシェアの大きな主体が登場します。それが勝者として、大きな存在となりえるのは避けられません。

そのため、その勝者が持つ富をどう再分配するか、ないし、そのネットワークに還元するかが重要になってきます。その時に、コンセンサスアルゴリズムを活用するという方法があります。

ビットコインは、その設計がうまくいっています。ビットコインにおいて、コインの保有量が多い主体が存在した時に、その主体によるコインの送金や受取などのトランザクションには、マイニングが求められます。マイニングを行う人はその報酬を得ることができるのです。そういう点では、大きな主体の富を再配分しているといえます。ゆえにビットコインは、勝者が持つ価値の再配分が起こりやすい設計になっています。

ブロックチェーンの普及の課題とそれに伴う革新

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ーそのマイニングですが、日本ではマイニングプールが他国に比べて少ないという問題もあります

※マイニングプールとは
複数のマイナー(採掘者)が協力してマイニングを行うグループや体制

高橋:懸念だとは思います。マイニングプールがないということは、すなわち、GPUのリソースがないということです。また、電気代も高いので、日本はマイニングをしにくい状況となっています。今後、国内でマイニングが必要なブロックチェーンのプロジェクトが始まった時に、マイニングコストが課題になるでしょう。

曾川:ビットコインのマイニングができるくらいの電気代の安さとASICの開発技術があれば、今は解決できていない他の問題も解けるようになるでしょう。そう考えると、このマイニングができるインフラや技術を持っている国や地域が次の時代の覇者となります。シリコンバレーが半導体技術を土台として、数多のイノベーションを起こしてインタネットカルチャーを作っていったように。

※ASICとは
Application Specific Integrated Circuitの略。ここでは、ビットコインのマイニングなどに使われるチップを指す

ただし、何かの大きなイノベーションが起こると、今のマイニングに必要なコストも一桁下がり、そして、あっというまに今までできなかったことができるようになるかもしれません。

高橋:それに関する話で言えば、ビットコインのマイニング用のチップであるASICは、他のチップよりも2年位先に進んでいます。たとえば、既存のインテルの最新のCPUは、10ナノメーターのトランジスタを備えています。対して、AISCの最新は7ナノメーターなんですよ。7を作るのは大変なのですが、ASICではすでに実用化してしまっています。

曾川:そう、マイニングが引き起こした技術革新によって、プロセスの微細化と言う意味ではASICはインテルの先を行っていることになりますね。もちろん、ASICとCPUは複雑さが違うんですけどね。インテルのCPUってすごく複雑なので。

高橋:また、マイニングをしない時に生まれるコンピュータリソースは別のことに転用できますよね。たとえば、機械学習やディープラーニングなど。そう考えると、ビットコインによって生じたイノベーションは、他の産業の発展もすすめるかもしれません。

濱田:つまり、ビットコインのマイニングのお陰で、色々なテクノロジーが前進するということです。

曾川:電気問題も同じです。今後、マイニングで今まで以上の電気が必要になるとすると、我々は、その時に、イノベーションで解決をするのでしょう。そうして、ひとつひとつ社会が前進するのだと思います。

インターネット2.0はどんな世界だろうか

ーブロックチェーンの世界は、Web3.0の世界ともいわれています。いわば、今のインターネットやWebとは異なる新しい世界の台頭です。これについてどう思いますか

曾川インターネット自体の再構築のような出来事は起こるかもしれません。FacebookやGoogleなどを置き換える企業が生まれる可能性はあるでしょう。

高橋:スマホができてLINEやメルカリが登場したように、ブロックチェーンの世界でも、また新しいキラーアプリは生まれると思います。

すでに既存のアプリのDApps(分散化)版は登場しています。Dropboxの代わりにStorj、Skypeの代わりにExperty.ioなどです。今後も、そのような既存のサービスのDApps版は生まれてくるでしょう。

濱田:ただ、Web3.0という表現は、正確にいえば「インターネット2.0」の方が適切でしょうね。

曾川:確かに。Webというとドキュメントの話なのですが、ブロックチェーンは、いわばインターネットのオーバーレイ技術なのです。しかもピア・ツー・ピアの。そういう点では、Web3.0というよりも、インターネット2.0の方が表現としては正しいかもしれません。

ーインターネット2.0は非中央集権の世界と考えればよいでしょうか

高橋:まず、ブロックチェーンの世界は、Decentralized(非中央集権)の前にDistributed(分散)なのです。最近はDLT(Distributed Ledger Technology)とも言われていますが。その表現を使うと、まずは「分散型」の世界だと思います。

ー非中央集権と分散は異なるということでしょうか

曾川:DLTは、テクノロジーの話なので、意思決定の方法は別の話です。DLTの上で、意思決定は中央集権的に行われることもあれば、分散型で行われる場合もあり、どちらのパターンもあります。

そして、「中央集権か非中央集権か」の話は、意思決定の仕組みの話になります。思想をともなうものです。

ーただ、DLTによって、今まで難しかった非中央集権型の意思決定ができるようになりました

曾川:そうです。ただ、非中央集権的な仕組みが本当に人類にとって良いのかどうなのかという点は私にはまだ分かりません。非中央集権が必ずしも正しいわけではなく、それによって世界は悪い方向に行くかもしれません。

濱田:非中央集権は、意思決定が分散しているので、意思決定が進まないという捉え方もあります。そう考えると、「正しい意思決定ができる集合体はなにか」という問いは残っています。

結局、いまは「非中央集権か中央集権か」という二択の議論から、「もう少しその中間にある曖昧な物を共有しようよ」といった状態になってきています。

曾川:そう、どの意思決定の方法が正しいのかわからないのです。ゆえに人々は、今はその意思決定を放棄してマイニングプールに参加して自分の一票を委任しているわけです(笑)

濱田:そう考えると、今後、「ブロックチェーンをどう使えば社会を設計できるか」という命題が取り組むべき1番の問題なのかもしれません。

その点を考える際に参考になるのが、今の会社の仕組みです。

会社は、ブロックチェーンのテクノロジーは使われていませんが、ブロックチェーンの枠組みと近い構造を持っています。株主は、その株の保有量によって、その会社の方向性を決められます。国も同じですよね。政治家を通じてですが、得票数によって、国の方向性が反映されます。

そして、会社法はスマートコントラクトのようにも機能します。皆が守らないといけないし、守らなかったら裁判で強制執行されます。また、それとは異なる会社独自のルールも就業規則で決めることができる。そう考えると、仕組みとして秀逸で、規制を国に紐付けて法律にしなくても、みんなでルールを決めることはできて、それを走らせることができています。

ただ、このように会社とブロックチェーンの枠組みは同じなのですが、今のルールだと課題も残ります。たとえば、これはみなで「そういうルールだよね」と決めても、実行されない可能性があります。「いや知らねえし」という者があらわれたり、誰かがこの場から去ってしまうかもしれません。そういう点で、会社のルールは破られる恐れがあります。

それに対して、そのようなルール違反が起こらず、正しく実行されるのがブロックチェーンです。そのため、ブロックチェーンをうまく使えば、国や会社の組織の限界を超えることができるかもしれません。

高橋:DAICOもそのチャレンジに近い考え方です。イーサリアムを創造したビタリックさんが提唱している考え方で、ICOと同じくプロジェクトに対して資金を集めるのですが、投資者によって、投資した金額をいくらまで使えるかを設定できます。プロジェクトが順調に進んでいるならば、その金額を引き上げていくことができます。うまくいっていないなら、その時点で閉じて、投資家は損失を最小化することもできます。

これは株式投資の仕組みをもっと合理的にすすめることができるような仕組みとも言えます。

曾川:現状、ICOでお金を集めても、進んでいないプロジェクトが世の中にはあるのは事実なので、このような取り組みは重要です。

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ーインターネット2.0の世界で、今と大きく異なる点はどのようなところでしょうか

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濱田「オンライン上で価値を自由に送ることができるようになる」という点が重要です。インターネット1.0は情報を送ることができたけど、次は価値ですよね。

これだけ情報革命があっても、現状、海外送金をするには一苦労です。アメリカにお金を送るには、時間もかかりますし、手間もかかります。銀行に行って銀行が承認して、そこから翌日着金するといったプロセスがあります。しかし、ブロックチェーンを使えばすぐに送金ができます。これは、価値を送れるようになったからできることなのです。

高橋:そこは、なぜ今まで出来なかったんだろうという気もしますが。

曾川:それは世界の価値を記録してる台帳がオンラインじゃなかったからでは。

高橋:オンライン化されている部分もあったものの、台帳がそれぞれ個別で存在し、繋がってなかったのが一番の問題だったのかもしれません。

曾川:確かにそこがつながっていないので、今それをしようとすると、トランザクションを相互に張れる形にした上で、お互いのシステムで決済や取り消しの処理をつなぎ合わせていく必要があるから大変です。

高橋:さらにいえば、取り決めたところで、両方とも守ってくれるかどうかもわかりません。

そういう点で、ブロックチェーンは国や企業を超えて台帳をつなげるので、このような課題を解決する可能性を秘めています。

ーブロックチェーンによる信用革命によって、我々の日常はどのように変わるでしょうか

濱田:信用情報が積み重なり、それが可視化されることによって、様々な場面で与信の活用ができます。たとえば、引っ越しの時に人によっては敷金がいらなくなるといったことが起こるかもしれません。

高橋:他には、デジタルの情報にきちっと価値がつくと思います。電子書籍やグラフィックにしろ、今のデジタルコンテンツはコピーができてしまいます。しかし、ブロックチェーンで、それらの存在できる個数を管理できれば、コンテンツの価値はあがります。

濱田:また、ブロックチェーンによる台帳があれば、物の評価や権利の移転もしやすくなるでしょう。今は不動産を売るのは大変です。瑕疵を評価したり、契約も数多く対応する必要があります。

曾川:確かに不動産の売買は、手続きがめんどくさいですよね、もし不動産を買うのが簡単になったら、買うは人もっと増えるのではないでしょうか。もっといえば、例えば「2年分だけ家を買う」といったことができると、もっと生きやすいですよね。

濱田:車もそうでしょうね。

高橋:車の車検の履歴はまさにブロックチェーンの台帳と親和性がありますよね。最初のオーナーがいて、次に誰がいて、という情報が可視化されると、人は車を買いやすくなります。

ー逆に、そのような世界だと、すべてのデータが残るので、息苦しくなりますか

高橋:自分が公開したくない情報を出していかないといけないというプレッシャーは生まれるかもしれません。それを出して行かないと成立しない部分もあるでしょうから。

濱田:たとえば、過去の交際経験もすべて可視化されたりして(笑)。

濱田:ただ、現状でも、フェイスブックで既に「恋人がいる」「既婚」といった関係性を可視化するステータス情報があるので、それに近いかもしれませんね。

ー「情報は出したくない」という人もでてきそうです

濱田情報を出さないという人は信頼が無くなっていくでしょう。「情報出していないというのは、やましいことがあるんだ」と思われるようになります。

ーそう考えると「善い人」が求められる社会になっていくのでしょうか。中国では、信用情報を蓄積するサービスが増えてきており、その影響で、「ちゃんとしなきゃ」と思う人が増え、社会のマナーがよくなったという話も聞きますが

濱田:「悪い人が減る」という可能性はあります。

今まで悪い人に対応しなければいけないコストが高すぎたと思うのです。もし、世の中に悪い人がいなければ、どの街にでも気楽にいけるでしょう。ただ、現実は、治安の悪い街には多くの警備員が必要だったり、監視カメラがあったり、その街を避ける必要があったりと多くのコストがかかっています。

高橋:安心できる社会では、家の鍵も要らなくなりますね。

高橋:うちの実家はそうだよ(笑)。泥棒に入る人がいない。

濱田:そう考えると、今、スマートロックで鍵を持たないで暮らせる社会を作ろうとしていますが、そもそも悪いことする人がいない世の中では、鍵さえもいらなくなります。

車も自由に使っていいみたいな世界もできるかもしれません。

曾川:自転車も勝手に持ってって勝手に返したらいいということができますね。

ーブロックチェーンは、そのような「悪い人がいない」世界を推し進めて行く可能性があるんですよね

濱田:可能性はあると思います。ちょっとずつそのような世界に前進してると思います。いわば、C2Cのカーシェアリングも、そういう「悪い人がいない」という世の中を前提にした仕組みです。もし悪い人の利用を前提にすると、自分の車が盗まれてしまう可能性が非常に高いわけですから。

こういうサービスができてきたとのも、そういった「善い人」を前提とした社会に近付いてきたのだと思います。

ーそれは裏を返せば「お前の行動を全部監視している」といった監視社会とも言えるような世界でしょうか

高橋:監視されるというよりも、「自分の情報をオープンにする人は利点がある」という世界観の方が近いかもしれません。

曾川オープンにすることに同意すれば、その対価を享受できるようになります。ただ、日本は国民性として、そこまでデータを公開することに抵抗があるかもしれません。そのような点で、日本での受け入れられ方は他国と違った形になるかもしれません。

ーインターネット2.0のキラーアプリはどのようなものが考えられますか

曾川DLTに基づく検索エンジンは生まれてくるでしょう。著作権管理とリンク・被リンクを活用した検索エンジンです。そもそも論文や特許、法律などは、ブロックチェーンに載せやすいものです。そして、それらで構成されたネットワークができたら、それを検索するものが次世代のGoogleになるかもしれません。

2016年、情報が不確かな医療のキュレーションサイトがGoogleで上位表示されたことが社会問題になりました。これは、不正確な情報がGoogleでは高く評価されたとも言えます。そう考えると、この事件は今の検索エンジンに課題があることを証明したともいえます。

もし、ブロックチェーンで、記事で使われていた情報のソースをしっかりトラッキングできていると、信頼できる情報だけで集めたキュレーションメディアができるかもしれません。そのサイトの情報は今よりは信頼できるでしょう。

濱田:正しいコンテンツを探すという観点では、コンテンツ評価をトークンで行うSteamも考え方としては近いかもしれません。曽川さんのアイデアは情報ソースによる信頼性の担保ですが、Steamは多くの人の意見による信頼性の担保となり、コンセンサスアルゴリズムは異なりますが。

他には、ブラウザも求められるでしょう。MetaMaskのようなChromeのプラグイン型のアプリやToshiのようなウォレットにも近いブロックチェーン時代のブラウザはでてきています。

ただ、今は、クリプトキティがもっとも使われているDApps(分散型アプリケーション)かもしれませんね(笑)

※クリプトキティとは
ブロックチェーン上で、仮想の猫を取引できるサービス

ー昨今のDAppsで気になるアプリはありますか

曾川:すでにDAppsはたくさんでてきています。たとえば、面白いところだと、Filecoinというアプリがあります。

高橋:Filecoinは良いですね。ストレージを提供すると対価にトークンを貰えるアプリで、P2Pのストレージ機能を実現するサービスです。

高橋:ただ、DApps自体の普及はまだこれからです。

ー何が普及の障害になっているのでしょうか

高橋:1つは、Gasですね。Gasが高い。

※Gasとは
イーサリアムでスマートコントラクトの行使検証を行った際にマイナーに支払う手数料

濱田:他には、ブロックチェーンの処理スピードの遅さも課題でしょう。

高橋:課題は沢山ありますね。

曾川:他にも、あるDBを分散台帳に置き換えようとしても、現状だとスケーラビリティの観点で難しい点があります。さっきの検索エンジンを作る話もそうです。実際、そのようなものを作ろうとすると、今のブロックチェーンの基盤技術では実用は難しいと思います。だからそれをできるような技術革新は求められるでしょう。

グーグルの検索エンジンを「世界最大の検索エンジン」としてたらしめているのは、その裏にある分散システムやストレージも含めた巨大な検索システムとインデックスです。それに相当するインフラを自前で作らないと、今は、ありとあらゆるものを台帳に載せるのは無理でしょう。

濱田:ただ、3ヶ月後にとんでもない技術ができて、解決されるかもしれませんが(笑)。

高橋:「ストア」と「価値を保障する部分」を分けて処理するという考え方はありますよね。

ー現状のブロックチェーンのキラーアプリの1つであるBitcoinといえばトークンですが、インターネット2.0では、トークンが溢れた世界になっているのでしょうか

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高橋:ブロックチェーンとトークンは分けて考えるべきではありません。ブロックチェーン上の価値の移転や動きを元を駆動するモノがトークンになっていくので、両方を考える必要があります。

ーそうすると、トークンを管理するウォレットもキラーアプリになりえますか

高橋:ありえると思いますが、秘密鍵をどう管理するのかという問題はあります。

曾川:暗号鍵に関して、PKIという仕組みがあります。これまではその仕組み上は、秘密鍵をなくした時はリボーク(取り戻す)する事ができました。

※PKIとは
public key infrastructureの略。公開鍵と暗号鍵を用い暗号化などを実現するセキュリティ基盤

ただ、仮想通貨のテクノロジーの最大の問題は、鍵が漏れたら、対応する概念がないことです。

高橋:まぁ基本間違いが許されない世界だよね。

濱田:鍵が漏れると、もうどうしようもないです。

曾川高橋:もうどうしようもない

濱田:失くしたら終わりです。漏れて、資産を移転されたらおしまいです。

曾川:ゆえに、中央集権的な安心のレイヤーが必要になります。そのため、当面、取引所も必要になりそうです

ーIoTはマイクロトランザクションが求められます。その点で、マイクロトランザクションを実現するブロックチェーンは相性がいいとも考えられます

高橋:ブロックチェーンのIoT活用は、まだまだ課題も大きいのが現状です。IoT機器は、性能が貧弱なこともあり、大きな計算や処理を求められるブロックチェーンとの相性は悪くなります。

ブロックチェーンは分散と言われていますが、リソースが分散してるだけで、台帳の中身は分散しておらず大きくなり続けます。そう考えると、その大きな台帳を容量の小さなIoTにどう持たせるかは課題です。

さきほどでたマイニングの課題と同じく、今後、テクノロジーで解決して行く必要があるでしょう。

ーブロックチェーンの普及は、AIにも影響を及ぼすでしょうか

高橋:ブロックチェーンとAIの融合は今後出てくると思っています。

コンセンサスのアルゴリズムは、今は「同じルールで、同じ処理で判断して」という状態です。例えばそこにAIを活用すると、より効果的に、また、曖昧なものに対しても処理ができるのではないかと思ってます。そうすれば、今は判断が難しいファジーなコンセンサスに対しても向き合えるのではないかと思っています。

企業はどうすべきか

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ーICOに関しては、どう考えるべきでしょうか

高橋:現状、ICOは、資金調達をするための手段としては適切ではない部分も多いでしょう。

曾川:同感です。資金調達のためにICOをするのは、現状では、多くの課題があります。たとえば、その調達したお金に税金が掛かり、消費税も発生します。そう考えると資金調達の用途としては適しているとは言えません。現状は、法的な保護も無いですし。

また、さきほどもありましたが、ICOで得た資金を目的を遂行するために使っているかという点に正しく答えられる仕組みもありません。

高橋:今後、ちゃんとルールができてそれに則って認められて、という形であれば、ICOも資金調達の手段として考えられるタイミングがくるかもしれませんが。

曾川:そうですね。ただ、いまのルールが無い状態ではやれません。

ただ、トークンを発行すること自体は否定するものではありません、トークン発行とICOの区別はちゃんとしないといけないと思います。

ー今後、企業はどのようにブロックチェーンと向き合うべきでしょうか

高橋:何でもかんでもブロックチェーンに置き換わる訳では無いとは思います。ただ、置き換えた方がよいものがあり、それらは中長期では置き換わっていくと思います。そう考えると、企業も自社の事業を鑑み、ブロックチェーンとの親和性が高いようであれば、向き合う必要があると思います。

曾川:ただ、自社の事業をブロックチェーンに置き換えるには痛みを伴います。そのため、そのチャンレンジはなかなか企業としてはすすめにくいのも事実です。ただ、この問題はメルカリにもいえます。メルカリの事業もブロックチェーンに取って代わるかもしれません。そのため、今我々は勇気を持ってそれに取り込む事が求められています。

ー最後に、何か伝えたいことはありますか

濱田:このようにメルカリではブロックチェーンに可能性を感じています。それに共感してくださるエンジニアを募集中しています。

ブロックチェーンを0から作るようなことに浪漫を感じる人は、ぜひお気軽にご連絡をいただければと思います。

»[merpay]ソフトウェアエンジニア(Blockchain) / メルカリ

以下、2点のお知らせ事項です

■お知らせ1

以下は、今回の3人が、ブロックチェーンの可能性について語っている今回の姉妹記事です。もしよろしければこちらもご覧ください

»メルカリはブロックチェーンをどう考えるのか?普及した世界に見えるもの

  • Writer:原田和英(Mercari, Inc.)
  • Editor:原田和英(Mercari, Inc.)
  • Photographers:熊田勇真、稲川亮輔(Mercari, Inc.)