デザインシンキングとは、方法ではなく考え方だ - メルカリ流の実践方法

f:id:mermirai:20180509180659p:plain

皆さんは「デザインシンキング」と聞いて何を思い浮かべるだろうか。「最近よく耳にするものの、具体的にはよくわからない」という方もいるのではないだろうか。少なくとも、私はそうだった。

そこで、今回は「デザインシンキング」をテーマとしたプロダクト開発の未来について、デザインシンキングの専門家であるメルカリ社員のジャスパーに話を聞いた。

目次

f:id:mermirai:20180509180732p:plain

ジャスパー ウ (Jasper Wu )

スタンフォード大学によるデザイン思考を学べる d.school在学中に、デザインリサーチやHRI(Human-Robot-Interaction)のプロジェクトに取り組んだ後に、デザインシンキングのワークショップのファシリテーターとしてキャリアをスタート。その後Samsung Strategy and Innovation Centerでデザインエンジニアとして活躍し、株式会社メルカリに参画。

デザインシンキングとは何か

ーそもそもデザインシンキングは、なぜ『デザインシンキング』というのでしょう?

デザインシンキングと聞くと「デザイン」という単語から「図案等を意味するデザインの話」と思えるかもしれません。しかし、ここでいう「デザイン」は、英語のデザイン(Design)という単語が持つ「設計」などの意味に近く、「スマートに問題を解決する=デザインする」といった意味合いでとらえた方が正しく理解できます。

つまり、正しく問題を解決する考え方=デザインシンキングですね。

ただ、意味が伝わりづらいので、「デザインシンキング」という表現はやめて「行動デザイン」にしようと唱える人もいますね。私もそのネーミングに賛成です。デザインシンキングというのは単なる理論ではなく、行動につながるマインドセットですからね。

ーではデザインシンキングとはどのようなものでしょうか

デザインシンキングとは、問題を解決するマインドセット(考え方)のことです。

「特定の手法や方法」だけを指すのではなく、「考え方」です。ではどのような考え方でしょうか。

それは、一言でいえば、ユーザーに向き合うというものです。

デザインシンキングの進め方の一例としてはこのようなものです。

まず、ユーザーの考えや課題を理解します。そして、それから得られた現状の問題を定義し、それを解決するミニマムなプロトタイプ(試作品)を作ります。そのプロトタイプでユーザーの反応を見ながら、プロダクトをブラッシュアップしていきます。

ただ、これは一例の流れだけであって「これがすべてだ」というものではありません。実際にデザインシンキングのプロセスは、一括りでは表現できるものではなく、行きつ戻りつ試行錯誤をします。

そして、その過程で、ユーザーを中心に外部の人や社内の様々な部署からたくさんの人を巻き込んで、アイデアをブラッシュアップしていくのです。そこにいるのは常に「ユーザー」です。

会社によっては、ユーザーを販売する相手として見ているだけで、製造工程に入る前にユーザーの意見を聞いていません。それはナンセンスですね。あるいは、いくつかの会社ではCEOを中心とするマインドになっています。CEOや経営陣が考えることを起点として製品が作られています。

しかしデザインシンキングでは、ユーザーに向き合って問題を解決していくのです。そのマインドセットがデザインシンキングにとって重要なものになります。

料理で例えてみましょう。

あなたが料理を習うために料理教室に参加したとします。デザインシンキングは、そこでいえば「料理への向き合い方や考え方」のことを指します。つまり、料理というものを体得するには、何度も何度もいろんな料理やレシピを練習する必要があるでしょう。そのように、デザインシンキングでも、文脈や文化など異なったシチュエーションを経験し「学ぶ」ということが求められます。それらの経験を通じて、問題を解決する多様なデザインシンキングの方法を適応することができるようになります。

昨今、「デザインスプリント」の方法が話題ですが、それは「良いラーメンを作るためのレシピ」の1つでしかありません。デザインシンキングは、そのようなレシピも含めた、料理のやり方や向き合い方を指しているのです。

www.youtube.com

どのようにすすめるべきか

f:id:mermirai:20180509180754p:plain

ー「ユーザーを重視して、プロダクト開発を進める」ということは従来も行われてきたように思えますが、そのようなやり方とは異なるのでしょうか。

大事な点はユーザーへの共感ができているかという点です。ユーザーを理解して彼らと同じ感覚を持つことです。

例えば、ユーザーインタビューをして、観察をしながらプロダクト開発をすることは今までしていたかもしれません。しかし、共感までできているでしょうか。単に観察するだけでなく体験を共にし共通感覚を得ることが大切です。

また、ユーザーを中心に考えると、プロダクトの開発ステップも変わってきます。具体的には、デザインシンキングではプロトタイプから作ります。

ユーザーの共感を元に、課題と解決の仮説を小さなプロトタイプを作り、初期段階で失敗を経ながら、仮説をブラッシュアップします。プランニングに時間をかけるのでなく、小さなプロトタイプに対してユーザーからフィードバックを得ます。

ユーザーを中心に考えると、ユーザーの意見を参考にするだけでなく、実際にユーザーに使ってもらう方が、より多くのことを得ることができます。そのため、最初から、完成したプロダクトを作るのではなく、まずはプロトタイプからはじめるのです。最初から完成したプロダクトを目指しても、ユーザーの意見を聞けるのは、完成した後になってしまいますから。そのため、ユーザーの声を聞きながら作るためのプロトタイプを作るのです。

ー「ユーザーへの共感」をもう少し詳しく教えてください。

ユーザーへの共感が正しくできていない例として、「他国で流行っている製品をそのまま自国に導入する」というケースがあります。例えば、アメリカでXという製品の人気があるとします。それはアメリカ人にニーズAがあり、そのニーズAを製品Xが満たしたからです。ただ、日本で同じ製品Xを提供して、アメリカ同様人気がでるのでしょうか。文化も価値観も違う日本人が、必ずしも同じニーズAがあるとは限りません。

市場としてはあるように見えても、ちゃんとユーザーのニーズがあるのかを見極める必要があります。

ユーザーへの共感というプロセスを経ずにローンチをすると、ローンチ後にユーザーのニーズがなかったと気づいても、製品自体を0から作り直すことは困難です。なぜならそれまでに、市場調査、企画、開発、などたくさんの時間やリソースを割いているためです。その場合どうなるかというと、ユーザーのニーズがない製品に対して膨大なコストを投下して、マーケティングでユーザーを集めるしかなくなります。

ーペルソナ(モデルユーザー)を決めることとは違うのでしょうか?

共感のプロセスの後にペルソナが来ます。ペルソナは、チーム間での情報共有の1つのやり方です。

デザインシンキングの一例としてこのように進めることがあります。

まずインタビューをするユーザーをカテゴライズします。そのカテゴライズしたユーザーにインタビューを行います。ここで大切なのが共感です。

ときにはそれを元にペルソナを作ります。それからペルソナ毎にユーザージャーニーマップを作成し、ユーザーの日々の行動や製品との接点を探ります。その結果をもとにチームで施策をブレインストーミングをします。これは私の主催するワークショップでもやってもらっていますね。

ペルソナとジャーニーマップは、チームでアイデアを共有するのにとても便利なツールです。しかしながら、それらによって思考を制限してしまうことは避けなければいけません。アイデア共有の方法はたくさんありますが、正しい状況において正しい使い方で活用する必要があります。

なお、製品をローンチしたあとの改善フェーズにおいて、ユーザーテストをおこなうにあたり大事なポイントがあります。インタビューをおこなう対象は、ど真ん中のユーザーはもちろんですが、熱狂的なユーザーや全くその製品を使っていない層に対してもインタビューをおこなうことが大事です。

なぜなら、そのほうがより多くの改善につながる情報が得られるからです。その製品をそこそこ好きな人は、案外、なぜその製品が好きなのかわかっていないことがあります。対して、熱狂的なユーザーや、その製品を全く使っていない人のほうが、その製品の好きな理由や嫌いな理由について知っていることが多いです。

ープロトタイプまではどれくらいの期間で作るものでしょうか

新しいプロジェクトを始めるにあたり、よくやるのは100時間くらい使ってその問題の解決策を考えることです。およそ2週間ですね。皆で一緒に問題解決に取り組みます。

その後、それまでの議論を元にしたプロトタイプを考案します。

プロトタイプを作るにはいくつかのやり方があります。もっとも簡易的にするならば、ポストイットなどを使ってできるペーパープロトタイプがあります。用意するものは紙とペンだけでラフ画でも良いでしょう。それを元にユーザーに経験してもらい、早い段階でユーザーからのフィードバックを得ます。

ここで大事な点は、利用されることや売れることを主眼とするのでなく、失敗も含めて学習することですね。最初から仮説が合っているのはラッキーでしかありません。そうではなく、失敗した時にこそ学ぶのです。そこで、仮説と違ったユーザーの本当のニーズを見つけていくのです。

あるいは、社内の人で簡易版のテストをすることもお勧めします。

また、守秘業務に関わることがあれば、プロジェクトとは無関係のものを一次的なプロトタイプとしてテストしてみることです。

ペーパープロトタイプ以外では、アドビ社が出しているXDや、InVision社が出しているInVision といったプロトタイプ用のアプリツールを用いて作ることもあります。これによって、エンジニアが開発に入る前に、ユーザーのフィードバックを手に入れることができます。一般的に、エンジニアのリソースは高価ですからね。フィードバックをもとに、プロトタイプがユーザーニーズを満たしているのか、そうでなければなぜなのかを聞き出していきます。

f:id:mermirai:20180509180840p:plain

ーこういったプロセスは効果的に効く業界/効かない業界はあるものでしょうか。

ハードウェアの業界では、特にデザインシンキングが必要です。

その中でも自動車などのハードウェアにおいては、車型やデザインを決めてからだとコストがかかり過ぎてしまいます。そのため、早い段階からプロトタイプを作って、ユーザーの反応を見ることが重要です。

ー「デザインシンキングが浸透している」かどうかを図る指標のようなものはあるのでしょうか?

まずはユーザーと話をしているかどうかですね。社内を対象としたテストを実施しているところはたくさんありますが、社外の人に向けてユーザーの意見を聞き出すといったことをしているところは多くありません。

そこでさきほども申し上げた2点に戻ります。

・「ユーザーと話したか?」
・「プロトタイプを作り、テストをしたか?」

もし両方ともやっていないとなると、それはデザインシンキングとは言えませんね。そこに多くの時間を投資すべきです。なぜなら、最初から完璧な製品を作ってから作り直すよりも、ユーザーと対話をしながら作った方が、スピードという観点でも、費用という観点でも優れているからです。

実績のあるマネージャーですと、経験と直感をもとに「成功するから」という理由で作ろうとします。もしそれで成功する場合は、非常にラッキーだといえるでしょう。もちろん、そのやり方も1つだと思いますが、それだとその人依存になってしまいますよね。

ープロトタイプを作る前に、チームでアイディアを出し合う過程で、「これだ!」という仮説はどのように見つけるのでしょうか

デザインシンキングの考え方を組織や会社に応用しようとすると、様々な問題や障壁が出てきます。その1つは「曖昧さ」と向き合うことです。物の良し悪しに関わらず、物を作ろうとすると、曖昧なことがでてきます。事前に想定しているシナリオが良いかどうかわからないのですから。良いデザインシンカーはまず最初はその曖昧さを受け入れる必要があります。

その上で、その曖昧さをなくしていくことが大事なのです。例えば、ユーザーがどのような問題を抱えているのかがわからなければ、調査やユーザーインタビューを行い、問題を特定します。そのような開発プロセスそのものが、不確定要素を少なくしていく過程になります。そうすることで自分たちが作っているものが、的を得たものだと確信を得ていくことができます。

ー製品開発をする際の、重要な考えはなんですか?

「正しい問題」をみつけることです。

組織にとって大事な製品を作るのではなく、ユーザーのニーズを見つけることです。そしてユーザーのニーズを的確に満たしている製品を開発し、その問題を解決してください。

多くの会社では、市場調査は十分におこなっています。対象となる人がどのくらいいるのか、その中で一定割合の人が利用したら、利用者はどのくらいの人数になるのか。

ただ、ユーザーが本当にその製品を求めているのかの調査については、十分におこなえているとはいえないでしょう。

どのようなチームで進めるべきか

f:id:mermirai:20180509180857p:plain

ーデザインシンキングをすすめるにあたり、「このようなチームで進めるのが良い」といったものはありますでしょうか?

多様性は組織にとっては非常に重要で必須事項です。多様性といっても、性別、年齢、文化、など様々な観点での違いがあります。より多様な人材で構成されたチームでは偏った組織と比較しても、より多くのアイディアが生まれやすいのです。

例えば「エンジニア」という職種を性別の切り口で考えてみると、女性エンジニアの数は、特に台湾、中国、インド、日本、韓国などのアジア各国においては、教育システムの影響により少ないです。テクノロジーの観点からすると、AI専門家、機械学習、データサイエンティストはコンピューターと一体で男性的視点に基づいています。私は、もっと多くの女性エンジニアから多くのアイデアが生まれてくるよう願っています。

ーひとりでアイデアを考えるのではなく、チームで考えるのはなぜでしょうか

良いアイデアとはひとりの人間から生まれるのではなくチームから生まれるのです。ひとりで良いアイデアを思いついたことはないですね。

チームでアイデアを共有し、そこからフィードバックを得ていくのです。

  • 「エンジニアの人どう思いますか?教えてください」
  • 「デザイナーの人どう思いますか?教えてください」
  • 「ビジネスマンの人どう思いますか?教えてください」

このように、次々アイデアをくっつけていくことで良いアイデアを生み出すのです。個人だけのアイデアでは限界があります。いつも側にチームがいて、チームこそが良いアイデアを生み出してくれるのです。私が手掛けているもののほとんどは、多くのサポートがあってのことですので、一個人から生まれるものではありませんね。

ー職種としては、どのようなチームが良いのでしょうか?

プロダクトマネジャー、デザイナー、エンジニア、マーケテイングといったビジネスサイドに加えて、ぜひカスタマーサポートの人も参加して頂きたいです。なぜならカスタマーサポートはユーザーフィードバックを受ける最初の窓口なので、彼らが新しいプロジェクトに関してどう思うかを聞きたいのです。初期段階から40時間くらい、もしくは数日間くらいは、一緒にいてもらいミーティング、ブレインストーミングや良い解決策に関して一緒に考えていきます。

また、多くの組織ではデザイナーは影の薄い存在で、給料もエンジニアほど高額でない場合があります。しかしながら、デザイナーには独自のクリエイティビティがあるのでもっと注目されてもよい存在です。アメリカではデザイナーがリードするものはとても大きな影響力を持っています。デザイナーの視点に基づいた行動は常に良いアイデアと解決策を生み出します。彼らはユーザーの立場に立って物事に取り組みます。ですのでディスカッションを開くたびに、私はデザイナーを巻き込み、初期段階から一緒に働けるか聞くようにしていますね。そのようにして異なる視点をチームの中に取り込んでいくのです。

ー良いデザインシンカーに求められる要素とは何でしょうか?

1つは、聞く力です。

私自身、オフィスにいる人と話すのが好きです。とにかく人と話すようにしてます。例えば、「調子はどうですか」というように。インタビューする際に重要なマインドセットは、深く掘り下げて聞くことです。ユーザーは氷山の一角のようなものです。よく言うのが、「見聞きできるものはほんの氷山の一角に過ぎないんだ」ということです。もし感情の部分を感じ取りたければ、さらに深いところまで理解する必要があります。

例えば、「最後にショッピングしたのはいつ?」と聞いたら、ユーザーは「先週、友人と一緒にショッピングに行きました」と答えます。それに対して、「その友人とはどんな人ですか?教えてもらえますか?」と深く掘り下げます。彼らの関係性と感情を聞くことです。それで「服を買った」と言ったら「いくら買ったの?」と話します。

多くの会社は台本通りのユーザーインタビューをしています。たいていの場合は台本を用意して「これを聞いたら、次はあれ」というようにマニュアルに沿って聞いてしまい、全く深く掘り下げてきません。それだと彼らの思いを感じ取ることはできません。もしこういったことをやりたければユーザーアンケートを行えばフィードバックを得ることができます。ですが私はリアルな対面でのコミュニケーションが必要だと思います。「聞かせてください。どう思いましたか?面白そうだね。もっと教えて」のように聞いていくのです。このようにユーザーへの理解を深めていきます。

再三申し上げている通り、重要なのは共感です。

掘り下げて聞くことは時に困難を伴います。特に日本ではアメリカと違い、家族や個人的なことは通常聞きません。このことが日本でインタビューをする際に難しい部分です。聞く側と聞かれる側の間に距離感を感じるからですね。この解決策としては、物理的でなくオープンマインドであるスペースを作り上げることが重要になります。まずはフレンドリーな感じで何気ない話からスタートし、彼らがどう思うかを理解したうえで、「もっと詳しく教えて」というように進めていきます。

本音を聞き出すうえで一番いい場所はどこだと思いますか?

ーお酒を飲んだ時ですか

その通り。居酒屋です。お酒やビールを飲みながら、家族などのアイデアをどんどんシェアしていくんです。インタビューする側とユーザーの距離を縮められるのかというと、アメリカではコーヒーを飲みながら話しますが、日本ですと、ビールを飲みながらですね。飲みながらアイデアについて話す。こんな感じのスペースを組織の中に作りたいと思っています。飲むこと以上にたくさんのことができます。アメリカでは共有スペースにコーヒーが置いてありますが、私はビールを置いてあるものを作りたいと思っています。そこでオープンマインドなアイデアをシェアしていくのです。

デザインシンキングを活用した成功事例

ーデザインシンキングにおける成功例の事例はどんなものがありますでしょうか?

Airbnbが一例として挙げられます。創設者がデザイナーですから特にAirbnbはデザインシンキングを活用できたのでしょう。彼らはデザインシンキングのプロセスをプロジェクトに取り入れようとしてます。加えて、ペルソナまたはジャーニーマップといった沢山のツールを備えており、たくさんのデザインツール、もしくはデザインプロセスをチームや組織単位で提供しています。

Airbnbと著名な投資家Y combinatorとの間にとても有名な会話があります。Y Combinatorが問題を抱えていたときにAirbnbに相談しにいくと、「サービスを作ろうとするときは、まずユーザーと最初に話すことだ」という返事を受け取ったそうです。そこで、その部分にきちんと取り組み、ユーザーが必要としていることを理解するよう取り組んだのです。具体的には、利用者にとって、Airbnbで使われている写真が良くないものという課題がありました。そこで、写真家を雇い良質な家の写真を出すことで売り上げを伸ばしました。テストを重ねていく過程で理解を深め、そのほかのサービスの質も向上させたのです。

参考

Airbnbを月商10万の企業からユニコーン企業に変えた考え方 http://www.mermirai.com/entry/designthinking_airbnb

その他はSpotifyがあります。彼らのデザインも優れたところがあります。Spotifyは製品デザインそのものがとても魅力的で引き付けられます。毎日、アプリを開くと曜日ごとの音楽リストが出てきます。例えば「憂鬱になる月曜日を元気づける音楽」とかですね。実によくユーザーとコネクトしていて、ユーザーがどう感じるかを理解したうえで作られています。本当に、音楽を聞く人が皆よりハッピーになれるようになってます。もし誰かに「一番お気に入りの製品は何ですか」と聞かれたら。「Spotify!」と答えますね。デザインシンキングの良い成功例です。

ハードウェア業界では、TOYOTAやHONDAといった自動車業界も活用しています。ソフトウェア業界では、Google、Apple、Facebookがデザインシンキングを使ってアイデア出しをしていますね。

国における差異

ーデザインシンキングは主にアメリカで生まれた考え方だと思いますが、日本でも、同じように活用できると思いますか?

日本は豊かな創造性を秘めているので、デザインシンキングを導入することでクリエイティブ面でのポテンシャルが引き出されていくと思います。

ただ、日本にはユーザーに完璧になるまで見せないような文化がありますね。日本のクオリティは非常に高いですが、こういったマインドセットが初期段階でのプロトタイプを作るうえでの弊害になっています。

f:id:mermirai:20180509181003p:plain

東京は世界一人口密度が高く、人との物理的距離が近い場所ですし、電車の中でもものすごくお互いの距離は近いです。しかし、心の距離はものすごく遠いです。あえてお互いに話さないようにしていますしね。普段、友人とはつながろうと思っても、社会とはあまり接点を持とうとしません。海外の友人には、「東京はすごく密集した都市だけど、人々の心の距離はすごく離れている」と話してます。

例えば、「先週どうだったか教えて」、「金曜の夜はどうだった」みたいなくだけた話は、あまり職場でしないように思います。アメリカでは、そのような会話を職場でするのは、ごく当たり前のことです。皆、日々の生活や体験をシェアします。友人や親なんかとランチに行くときでも多くのことをシェアします。ですが、日本ではこのような話をあまりしないと聞いています。シェアしないことには、アイデアを生み出して、より良い仕事を作り出していくのは難しいですね。メルカリは外国人の方が多いからか、そのような会話をする機会も多いのですが笑

すごいアイデアは何気ない会話から生まれるという話を聞きます。喫茶店、エレベーターといった場所でたまに挨拶をして人と話していくことでアイディアが生まれます。多くの会社は革新のために次世代のユニコーンを見つけようとしますが、皆が考えを共有しコミュニケーションをとれるスペースなしには難しいです。

だからこそ、このデザインシンキングのマインドセットを活用することで潜在的なクリエイティビティを日本から引き出していきたいと思っています。

ーただ、情報の機密性を意識した結果、シェアすることに抵抗がある人もいるかと思います。

確かにそうですね。ですが、アイデアというのはオープンにディスカッションされるべきものだと思います。なぜなら同じようなアイデアを抱えている人は相当数いるからです。重要なのはアイデアそのものでなくそれを実行することですね。デザインシンキングではアイデアはチームの中でシェアされ議論されるのです。

メルカリでは「Yes,and」と呼んでいるものがあります。それは、ブレインストーミングをする際に肯定でアイデアを足していくという方法です。避けるべきは、「こんなものを作りたいんだ......」「それはいいね」「それはちょっと・・・心配だな」などといった「評価」を持ち込まないことです。代わりにアイデアをどんどん付け加えていくのです。もし「そんなのだめだよ」などとだめだしされたら誰もシェアしたがらなくなってしまいますね。このようにして皆が気後れなく意見をシェアできる組織文化が形成されていくのです。

メルカリにおけるデザインシンキングの実践に感じて

f:id:mermirai:20180509182406j:plain

ーメルカリでは、どのようにユーザーと向き合っているのでしょうか

メルカリでは「デザインシンキング」という表現はしていませんでしたが、従来より、お客さまの声を聞きながらサービス開発をしてきました。

まずメルカリにはUXチームがいます。彼らがお客さまがどこに課題を感じており、どの部分が改善が必要かを把握します。度重なるユーザビリティテストやユーザーインタビューを行っていますね。そして、どの社員でもそれらを見ることができる仕組みを整えています。

またCSチームがお客さまのフィードバックを元に、より良い体験が提供できるようにしています。他にも、改善投稿チャンネルもあり、誰でもアイデアをシェアできる仕組みがあります。

このように、立ち戻ってお客さまを理解し、話すように心がけています。それらの会話からどれだけよいものを作るために何をどう改善できるかを常に考えています。

また、今現在も、よりお客さまの声を聞くことができるように、進め方は常にブラッシュアップしています。

人は日々変化し続けています。新製品が出ると、「おぉ。面白そうだね!やってみたい」となり、人々の行動や考えは変化していきます。そのため、あなた自身も常に変化し続ける必要があるのです。昨今は、特にサービスや経済、社会情勢の変化が激しいので、人の考えもどんどん変わっていきます。そんな今だからこそ、デザインシンキングのような考え方が求められているのです。

Instagramが実践している例をみると、彼らはカスタマー向けのライブチャンネルを持っていて、そこからストーリーを生み出しました。それまでの静止画のコミュニケーションから新しいカルチャーを生み出していっています。これも、ユーザーのことに向き合い続けているからですね。

お客さまにより使っていただくために、常にユーザー体験を改善していく必要があります。

ーデザインシンキングはどのように受け入れられているのでしょうか

まずマネージャーとメルカリの皆さんに感謝しています。皆、本当にオープンマインドなんです。例えば、「ねぇ。こういうことを思いついたんだけど。やってみない」というようなことを私が言うと、「おぉ。いいね。やってみようか」というような感じなんですね。そこにはまさにメルカリのバリューであるGo Boldの心構えがあります。皆、やれることは何でもトライします。これが私の一番好きなところです。

さらに、もう1つのバリューであるAll for Oneもデザインシンキングには欠かせません。All for Oneでは、自分がチームの一員として参加しお互いに言葉を交わし、一つの目的と目標をシェアします。それゆえ、All for Oneのような会社の価値基準はデザインシンキングで必要な「人とアイデアを集める」のに役立ちます。

この2つのバリューのおかげで、デザインシンキングのプロセスを始めやすくなりました。

ーデザインシンキングはプロダクト開発以外でも活用できると伺いました

私は「どうしたらコミュニケーションの質を向上させられるのか」というような従業員の生産性を上げるプロジェクトにも関わってきました。従業員が体験できるようなプロトタイプとしてのツールを作り、その結果、皆がより多くの話をするようになりました。こういった組織の構造改革的な目的にもデザインシンキングは活用できるのです。

また、メルカリではGOTチームというグローバリゼーションを促進するチームがあります。そこでは、月1でドーナツを食べるというイベントもやっています。社員同士でドーナツを食べ、コーヒーを飲み、意見をシェアします。そこで出た意見を、皆に還元し、従業員にとってより良いサービスを提供しています。これもデザインシンキングが活きている一例ですね。

従業員が辞めたがる傾向にある企業の場合、従業員のメンタルを考慮する必要があります。彼らが「どう感じていて、なぜ辞めたいと思ったのか」といったことを理解する必要があります。例えば「達成感がなかった」のかもしれません。もし彼らが成長したいと思っている場合は、そのスキルを伸ばしてあげられるよう努めるのが組織にとって重要です。

私たちは良いサービスを自分たちの組織に取り入れたいと考えています。デザインシンキングの応用先は幅広く、それは固定されたプロセスでなくマインドセットなのです。

ー最後の質問ですが、デザインシンキングを自社やチームに適応しようとしている方に何かアドバイスはありますか?

まずデザインシンキングを進めようと思ったならば、最初から完璧を求めるのではなく、まずは小さなスタートを切ることです。複数のプロジェクトが同時路線で動いている中で、早い段階で人を集め、デザイナーを呼び、ディスカッションをする。また、別のプロジェクトでは、ユーザーテストの企画でエンジニアが関わる前にユーザーインタビューをするといいでしょう。まずは小さなスタートを切ると、後に続いて他の人たちが価値を見出していきます。仮に「これはすごくいい」という意見が出たら、本格的にやり始めれば良いのです。

スタンフォードのd.schoolに有名な引用があります。

“Nothing is a mistake. There is no win and no fail. There’s only “MAKE” (失敗というものはありません。勝ちや負けもありません。あるのは「創造」だけです)」

本を閉じて、何かを作り始めましょう。たとえ、それが、たとえ小さな一歩だとしても!

今後のデザインシンキングのイベントに関して

f:id:mermirai:20180509181021p:plain

ー5/22(火)に、メルカリでデザインシンキングのイベントを開催されますが、それはどんな内容ですか?※イベント詳細は末尾リンクをご覧ください

イベントではデザインシンキングのマインドセットを用いて、多くの人と実際に問題を解決してもらいます。それによって、デザインシンキングとはどんなものかということを体験してもらいたいと思っています。

ワークショップでは、6~7タームにわたり、5~6人くらいのチームごとに問題を解決していく予定です。

将来的には「高齢化社会に直面する日本」「少子化」といった大きな問題に対してもデザインシンキングを使って皆さんと議論ができればと思いますね。

メルカリでは今回のデザインシンキングのようなプロダクト開発の手法も取り入れながら、業務を推進しております。ご興味のある方はぜひご応募を検討いただければと思います。

» Mercari Careers | 株式会社メルカリ

なお、今回のインタビュイーであるJasperが働くプロダクト戦略室は以下からお申込みできます。一緒に新規事業の検証から事業づくりをしてみませんか。

»プロダクト戦略

■最後に、イベントのお知らせです
5月22日(火)メルカリ初主催となる「デザインシンキング」ワークショップを開催します!
» Design Thinking with mercari

* Written by 中田雄一郎
* Edit by 原田和英、笹木葉子(Mercari, Inc.)
* Photo by 熊田勇真(Mercari, Inc.)
* Illustted by 田中慎一(Mercari, Inc.)